酔生夢死DAYS

本読んだらおもしろかったとかいろいろ思ったとかそういうの。ウソ話とか。

五月の薔薇

今年でこの薔薇園も見納めかと思ってね。

見事な薔薇園、月の原ガーデン。
写真ではこの風景に包まれた瞬間の気持ちは伝わらない。

ふわりと空気と光の色が変わる。透明な壁、時空の壁を通り過ぎたときの感覚。
その向こう側には、永遠の秘密の花園

夢の中のような青空と静けさと小鳥の囀りだけのうつくしい五月の昼下がりであった。頑張って行ってよかった。

すっぽりと夢の中に包まれて今のあれこれからひととき解放される。

眩いこの光にすべてが鎮められている絶対の夢のところに繋がる。この体験はそのためのアクセスチャンネルだ。美への感受を開くというのは。
浄化の光が、視覚としての瞳だけでなく五感を圧倒し支配する。耳にもしんと沈み込む。閑雅なその静けさ。甘い花や緑の匂い、太陽の匂い。夢を再現しようとしてきた人の祈りと力によって織りなされたテクストのを読み込み、その中に共振し、読者となってともに遊ぶ。

真夏には岩に染み入る蝉の声。
この五月には小鳥の囀りがまばゆい青空に吸い込まれてゆく。そんな謐けさ。

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須くすべてのガラス張りカフェはいつでも永遠にこの五月の月の原ガーデンに繋がっているべきである。店に入った途端、どこでもドアのように永遠に続くこの五月の薔薇園、決して損なわれないこの時空に繋がる。カフェはその心の解放チャンネルのための避難場所なのだから。

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そしてどうしても考える。

今目の前では世界がこんななのに、何故母があの冬の暗い冷たい苦しみの中死んで行かねばならなかったのか。

私にはまったく理解できない。今母はこの五月の薔薇園の中に存在していなければならないと思う。

私の魂とともに、今ここに。

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…なんてことをね、つらつらと考えていたよ。