酔生夢死DAYS

本読んだらおもしろかったとかいろいろ思ったとかそういうの。ウソ話とか。

ヤナちゃん55歳ライヴ

ちょっと前の話ですが、行ってまいりました。吉祥寺曼陀羅Ⅱ。

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嬉し恥ずかし告白タイム、胸の内に抱き続けた熱い思い、積年の恋心。
この日を心待ちにしていたのだ、愛しのカレのお誕生日ワンマンライヴ。

ヤナちゃん55歳誕生日を記念して、昼の部、夜の部に分けて55曲を歌いきるという、55年酷使してきたご老体には大層厳しい企画である。

 

さて、これに関しては、大学の後輩にも同好の士がいる。熱烈なヤナちゃんファンである。(ちなみに彼女は川上弘美ファンでもある。前世では姉妹だったのかもしれない。)

後から、お互い別々に同じ日のチケットを手配していたことを知った。

私は昼の部、「にっちも編」
彼女は夜の部「さっちも編」

にっちもさっちも行きたかったがまあいろいろ無理である。コアなファンは地方からやって来て当然両方ハシゴするらしいが実際まったく大したもんだ。

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当日、原爆の日、日曜日。
(私の母の田舎は広島だったので、子供の頃は毎年夏休みを広島で過ごした。そこではこの日はもうなんというか、起きたときから空気の質感を変えてしまうような厳かな粒子が漂っていた。ものすごい非日常的に特別な日だったのだ。膝を正して正座をし、式典TV中継に臨む。黙祷の間、その短い一分間に、ものすごく一生懸命その日のことを想像する、考える。八月の広島はそういうトポスであった。なまなましいリアリティを感じていた、怖かった。はだしのゲンもあの頃読んだ。この日が今現在、日常の一日であることがいまだにどうもしっくり納得できない。感覚的に。)

…で、戦後72年のこの日、さまざまに無感覚になってゆく自分のことをしみじみと感じながら出かけた。 

久しぶりのデートを兼ねて姉と行ったんである。姉は結構なんでも楽しめるタイプの、なんというか雑草のように強いオールマイティにクレバーな感性の人である。

姉とのデートは結構楽しい。姉妹ってのは割といいもんである。
電車の中で来し方行く末ボソボソ話し合ったりね、両親のことも話し合ったりもできて、とりあえず何だかんだ姉ってのは頼もしい存在なんであるよ。(オレ根っからの妹体質。だってさ、生まれてからずっと妹だったんだからさ、そりゃ蓋し仕方あるめいってとこでしょう。)

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で、会場。

並んだ。ぎうぎうだった。暑かった。疲れた。
会場内もけっこうぎっしり。固い小さな椅子にちんまり座って、前の人の頭の隙間から全身全霊をかけてカレの姿を見つめ続ける。これはもう、放課後、ひっそりとグラウンドの隅から憧れの先輩を目で追う女子高生そのものである。


…そしてだけどやっぱり素晴らしかった。頑張って行ってよかった。
なんて色っぽいのでしょう、ヤナちゃん。


中盤のピアノ弾き語り「君を気にしてる」のあたりではもううっかり涙ぐみそうになっていた。(あたりを見回したらやっぱりホントに涙ぐんでる人がいた。ヨシ。)

そしてその後の「れいこおばさんの空中遊泳」からは「れいこ!(ヤナちゃん)おばさん!(観客)」「れいこ!(ヤナちゃん)おばさん!(観客)」と店内大合唱、曼陀羅歌声喫茶と化した。コアなファンはいるもんだ。

泣かせたり笑わせたリ、構成の緩急工夫したエンタテイナーである。
楽しかった。

そしてやっぱりどの歌も切なかった。

 

「弱い人間が弱い心をさらけ出す…」

呟くような歌い出し、そして緩やかに流れ出す、ギターの和音。この歌が大好きだなオレ。ヤナちゃんのブルースの真髄だ。「ブルースを捧ぐ」

再び涙腺が熱くなった。どうにもならないほど大好きなのだ、このロクデナシ負け組への哀愁に満ちたシンパシーが。

ライブ、やっぱりイイ。圧倒的な歌唱力。伸びやかで艶のあるいろっぽい声。一つの歌と音楽に全員の心が共振する、ひとときそれぞれの日常のくびきから逃れ、親密な場を共有し総員がつくりあげる一種異様な祝祭空間に同化する。非日常とはこのことか。

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後輩君とは合間にメッセージをやり取り、愛しいカレの様子を報告しあった。当初、私は、夜の部に備えて力をセーブするカレの姿を危惧し、彼女は昼の部で力尽きたカレの姿を危惧していた。

が、双方それはまったくの杞憂であった。
さすがヤナちゃん、見上げたプロ根性である。昼間っからまったく先のことを考えないペース配分無視の全力投球ぶっとばし大熱唱。額に青筋立てて喉も裂けよと歌い上げる、伸びやかな歌声。その並々ならぬ歌唱力、そして、ああ、何度でもいいたいのだ、その並々ならぬいろっぽさのことを。(そして夜の部の報告を聞くと、やはりヘロヘロになりながらも歌声だけは伸びやかに、最後までぶっ飛ばし続けたそうな。そして後輩君やはり涙ぐんでしまったそうだ。「至福でした…」わかる。そして今オレが一番好きかもしれない「再生ジンタ」歌って泣かせてくれたそうだ。うういいなあ。)

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とにかくその場にあって、私はもうおっかけの人の気持ちにすっかり同化してしまったんである。ええのう、なんかねえ、このままもう二度と娑婆に戻りたくないとかそういうの。ひっそりと闇の世界をわたらい歩き、正気に戻らぬままうっとりとそのまま消えてしまいたいとかそういうの。