- 作者: 香月日輪
- 出版社/メーカー: 理論社
- 発売日: 2008/08
- メディア: 単行本
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江戸を舞台にしている、と思いきや、江戸のパラレルワールドとしての、人間を妖怪変化たちに置きかえた「大江戸」ワールド。時代劇的な江戸情緒たっぷり。
このシリーズ、相変わらずの香月日輪節全開、いきいきとした文体、ファンタジックな魔法グッズ、美しく魅惑的な異界描写。お決まりの類型痛快キャラクターや、おいしいものの素敵な描写、娯楽サービス満点、人情冒険活劇。
…で、思うこと。
いくら何だかんだ言ってソレを否定する言論を振りかざしていても、娯楽モノである限り、逃れられないその物語構造が語っているもの。
それは、(決して純文学としての人間の内面を目指さないやりかたを追うところにある)、物語的にひたすら前向きな、徹底した出来スギ君のクリアな二元論的勧善懲悪。(正義やキレイゴトだけを振りかざすことを否定する、残酷さや理不尽を肯定してみせようとする、だが、それは、その中で、更に何か繊細な大切なものを隠蔽している、もうひとつのキレイゴトなのだ。)(この人の作品は、いつも、自説を否定する作品自体の構造の矛盾との闘い、ギリギリのところを突っ走っている。)
このシリーズは、特に、楽しい人情娯楽モノテイストの、江戸情緒妖怪ファンタジー、講談を聞くような、お芝居を見るような楽しさを追及したもの、安心して楽しめるけど、テレヴィドラマの紋切り型2時間ドラマ的のようで、ちょっと鼻について飽きてしまうかもしれない浅薄さ、という危険をはらんでいるように思っていた。これはこれで楽しいけどね、とは思いつつ。
が。
シリーズ3作目、4巻めに至って、(シリーズ始めは、異界から落ち来る者あり、で、上下巻。)いきなり、今までになかった風景、モチーフが出現したんである。かなり驚いた。
いきなり、新鮮に、この人のもともと不定形で多層な世界観に、ずぶっと新たな深みが増した。
宇宙、神、の領域。
萩尾望都のSFファンタジーを彷彿とさせる、永遠と無限、静謐な宇宙のイメージ。
天空の竜宮城、空を泳ぐ魚たちの清浄で美麗な世界の、またその深奥に秘められた、赤い鳥居の向こう側の、神の領域。
そこは、空間、時間を超越した、地球外、一面の白い空と湖、そして、永遠に佇む象、永遠に本を読み続ける神の子供…
世界と自分の意味を問う主人公の少年、雀に、禅問答のような答えを返す、全知の象。
その「わからなさ」を、真理そのものの「わからなさ」としてわからないままに、まるごと心にしまいこみ、雀は帰還する。
永遠に本を読み続ける童子、という風景としてのモチーフが心に残る。
どこか、宮沢賢治の神の童子を彷彿とさせるのだ。世界を読み続ける者、子供の姿。
(流動する時間の中では、意味は自ずから見出すものである。)
…さまざまに、解釈の余地と、うつくしい清浄な余韻を残しつつ。
とりあえず、物語としては、その後、お決まりの、この地の神秘の力を悪用しようとする悪者に襲われ、手に汗握る派手なアクションシーン。
この神の地を護る守り人普段は、役場の下っ端の冴えないおじさん、にこにこおだやかなだけの伊吹さんが、いざというとき、神の地を守る、闇の腕利きの神守、武闘派の影者だったりする。(カッコイイ。必殺仕事人。)
とりあえず、おもしろくなってきて、嬉しい。