オレが通っている風呂場にはサーヴィスのマッサージチェアがみっつほど備えてあるんだが、今までまったく我が意識野にはいってこなかった。はっきりいってバカにしていた。
私には愛用の中山式快癒器があるからだ。(ここで記事にもしたくらい愛していた。)あんなムダに地球資源および人的資源を投資したムダな電気エネルギー食いつぶし金食い虫おもちゃ大好き理系人間マッドサイエンティストの遊びのしりぬぐいカモさがし押し売り詐欺商品は趣味じゃない、邪道だ。(以前安物のマッサージマットみたいなのうっかり購入、ゴリゴリやられても痛いばっかりでまったくよろしくなかったトラウマのせいではある。)孤高なまでのストイックぶり、最も簡素なあの中山式スタイルに誇りをもって敬意をはらっていたからだ。
そうでなければちゃんとあたたかな優しい手を持った人間に、できたら熟練の職人技もった方にちゃんとお願いしたいわい、って思ってたからだ。
しかし、ふと目に入ってしまったその革張りのものものしく偉そうな椅子。座り心地はよさそうだ。そしていつもは順番待ちをしているのにそのときはがらんとあいていた。
まあ一度くらい試してみるかな、とこっそり座ってみた。
なんだかリモコンでボタンもあれこれあるんだが操作法がよくわからない。(機械系統ダメである。)(すんまへんなお脳が弱いもんで。)とりあえずおまかせトータルメディカルコースみたいなのがあったので押してみる。
「うい~ん。」
…うへえ。
「うい~ん」
…すげえ。
「ごごごごごごどすんどすんじわ~」
…すげえ、イイ…
ほんにもう、すげえいいのですわこれが。恐るべし我が国の家電技術人間工学。日々がむしゃらに働いておられるジャパニーズビジネスマンの方々の命を削ったその結晶。その粋を、果実の甘露をひとしずく味わってしまった。
職人の技である。頭蓋骨から足裏まで、絶妙のツボを圧迫し、振動を加え、もみほぐし、こまやかにたたく。ああオレは君のなすがまま。
15分のあと、オレの人生は一皮むけて明るかった。
素晴らしいジャパニーズビジネスマン、その卓越した能力、情熱、労苦、職人技への挑戦の美学、その愛。
「転向」
…欲しいよう。
あれウチにあったらなあ。
飛行機のファーストクラスとか映画館の特別席とかのシートはアレにすべきとオレは非常に激しく思った。
しかしやっぱりね、なんかね、ジャパニーズビジネスマンの労苦の結晶はウン十万なのヨね、やっぱりね。彼らの人生だもんね。
なんかごめん、なんかすごくごめん、中山式快癒器。キミのこと貶めるつもりなんてないけど、でも、でもね…
いやごめん、うそだよ、やっぱりオレにはキミしかいない。わかってるよ、違う世界を垣間見て血迷ってしまっただけだよ…
今度順番待ちしてなかったらまた座っちゃおうとひそかに人生の方針を固めたのはナイショです。
欲しいなあ、アレ。