人気があるらしい。図書館でも、一巻が、なかなかない。
イマドキお子ちゃま向けの、お手軽勧善懲悪RPG風のステレオタイプキャラクターを組み合わせた娯楽オンリーライトノベルなんだろな、と、目立つ場所におかれていたけど、ずっと素通りしてきていた。が、たまたま一巻があったので、ちらりと読んでみる機会を得た。
…シマッタ。
こんなに快い読後感だとは…
ライトノベル、侮りがたし。
ウツウツと、閉塞感に囚われがちな、家人の存在するかなしい牢獄週末。
憎しみや嫌悪に、心鏡は曇り、獄中に閉ざされ、ふとねじけそうなココロに、ふわりと酸素を供給してくれる、許しに似た、青空への開放感のような、優しい快さ。
主人公は、突然に両親をなくし、当然であったはずの平凡な幸福の日々を失って、親類の家で、ひたすら息の詰まる孤独な中学時代を過ごした男の子、稲葉夕志。高校に合格し、念願の自由な一人暮らしをはじめる。舞台は、妖怪や幽霊のたまり場のアパート。
そりゃあ、ヤングアダルト、青春モノ。
あからさまに快楽中枢を刺激する、いささかお尻のむずむずするような恥ずかしさのあるティピカルなキャラクター(しかし、なかなか悪くはない。気障な粋人骨董屋さんとかね。)や言葉遣いセンス(るり子をるりるり、と呼ぶ、とか、なんとかちゃん、を、なんとかたん、と呼ぶ、何となく2チャンやら秋葉原やらを想起させるわざとらしい幼児語的言葉遣い。…こういうの、どうも受け付けないのだ。大体、悪妻はヒネクレモノなので、犬猫をワンコ、ニャンコなどと呼ぶセンスにも、どうもいちいち背筋がぞっとしてしまうかたくなさを有している、…むむ、もっと柔らかにならねばイカンのう。)、ストレートに過ぎるほどの、陰りのない、まっつぐに明るい物語展開、魅力的な舞台設定(アンティーク大正ロマン風な建物、ステンドグラス越しの光の色、いちいちがおいしそうな、丁寧な妖怪アパート賄い料理のごちそうの描写)、妖怪や異界のファンタジックな要素、ものめずらしい不思議の楽しさ。
…そんな、これら色鮮やかな風景の魅力、だけではない。
これらの「ツール」を使用して、価値観の多様と世界の豊かさを、必死で主張しようとする、勧善懲悪を否定する、こんな知性には、無条件で降伏してしまうのだ。
よくも悪くも、ひたすら、まっつぐで素直な、あたかも、NHK「週間コドモニュース」のような、知ったかぶり、大人のふりをよしとしない、嘘のない、無垢さは、無知で非現実的な弱さを持ちながらも、ときに、「当然の現実・常識」の奥に失われた知性の原点と、硬化したシステムの誤りを攻撃する視点、可能性としての若者の力を顕現することができる。
まだまだ、一巻を読んだだけ。続刊、読んじゃうぞ〜。
妖怪アパートの幽雅な日常(1) (YA! ENTERTAINMENT)
- 作者: 香月日輪
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/10/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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