酔生夢死DAYS

本読んだらおもしろかったとかいろいろ思ったとかそういうの。ウソ話とか。

堆塵館 <アイアマンガー三部作>

さて、「荻原規子が夢中になった長編ファンタジー」という雑誌の記事があったというワケなんである。うむむ、あの希代のストーリーメーカー荻原規子さんが。

これはきっと間違いないに違いない、と私が思ってしまったのも無理はなかろう。

ということで小説編をチェック。

まず『紐結びの魔道師』三部作 乾石智子著

…ウンウン、確かにこの人の本は全部読んだ。中毒性がある。

で、未読のもの。

エドワード・ケイリー著『アイアマンガー』三部作。
フランシス・ハーディング著『カッコーの歌』。

ヨシ、このふたつ課題図書、とアイアマンガーから手を付けたということなんである。

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いや~最初実にそのどろんと精神的生理的嫌悪感を呼ぶ世界描写の不快感にくじけそうになったんだが、後半の怒涛の謎解き&アクション展開の力技展開に押し流されるようにして、読了。荻原規子さん「夢中になったファンタジー」登録に納得。

「ゲームオブスローンズ」を観たときのこと思い出すようなイメージなんだな、これ。(ちなみに荻原さんが夢中になった長編ファンタジードラマ篇に挙げられていたのはGOTであった。)

最初のエログロ暴力(アイアマンガーにエロスと名誉欲としての権力への欲望の醜さの要素はないが。)への生理的不快感、恐怖感と世界観設定のわけわかんなさのハードルにくじけそうになるが、一線を越えてその不快に対する防御システムがこっちにできてきたところで猛烈な展開の力技でふかぶかと空恐ろしいようなずっしりと深く重たいおもしろさがやってくる。…これは素晴らしい。続きが気になって仕方ない、三部作だからな、このまま私は続きに流れることに決めた。

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あらすじというか作品内容メモ。

まず物語全体の風景のイメージはゴミの山に埋もれた19世紀の穢れきったロンドンである。塵にまみれて不幸に貧しい生き方のレールに囚われた生き方をする下層の人々、そしてその地域の権力一家、ゴミの山の中に屹立するアイアマンガー家内部。

この二つの世界。

屋敷の中の視点はアイアマンガー家の純血御曹司クロード。
もう一つの方は下層人民の中の孤児、ルーシー。

この二人の主人公の基軸から描かれてゆくふたつの生き方階層。
アイアマンガー家の奇妙なしきたり。生まれたとき紐づけられる、一生肌身離さずにいなければならない誕生の品。一生屋敷から出ることのない生活。…アイアマンガー家はゴミ処理で財を成し支配者となった呪われた一族なのだ。

誕生の品とは?しきたりの意味とは?
謎は謎のまま二人の生活が描かれてゆく。この辺り非常に読みにくい。
どちらにも陰惨な人間関係、理不尽な暴力、定められた人生のレールがそれぞれの形で蔓延している。読んでいてキビしいのだ。いずれの世にもいじめっ子の理不尽、弱いものの苦しみや生きてることに付随する醜さはあるんだが、それをゴリゴリと誇張した形でゴミのなまなましい汚らしさや匂いやなんかのイメージの優れた文章で押してくる。

己の置かれた環境の中でしたたかに生きてゆこうとするルーシーと、いじめっ子グループいとこの暴力にくるしめられる優しいクロード、クロードの親友のいとこタミスの生活がそれぞれの章立てでかわるがわる描かれる。

両親を早くに亡くしたクロードには生まれつき皆の誕生の品の発する言葉が聞こえる、という特別な能力があった。

ルーシーがアイアマンガーの血筋であるということで召使として屋敷に引き取られてゆくところから物語は動いてゆく。純血アイアマンガーと混血アイアマンガーの峻別は厳しく、純血は主人、混血は奴隷。新入りのアイアマンガー混血は屋敷に入るとき新しく誕生の品を与えられるがそれはとりあげられて預かられてしまう。それとともに、召使としてすべてのアイアマンガー混血者はひとしく「アイアマンガー」とだけ呼ばれ、それまでの名前と記憶をも取り上げられるようになる。

それまでの記憶も何もかも、アイデンティティすべてを奪われた奴隷となり家族の一族の愛の名のもとに、その一員として実は交換可能な匿名性のもとに屋敷のシステムに支配されて生きてゆくことになるんである。

名前を取り上げられることと記憶とアイデンティティを取り上げ個の人間としての尊厳を奪われることの関連の付け方が絶妙ではないか。

捨てられ使いつぶされ卑しめられ汚わいとなったモノとしてのゴミたち、それと一体化し利用することで上澄み上流社会から卑しめられながら財と権力を成し逆転し、モノを使いつぶしてゴミを生んできた人々の中で、その中でもより弱いものをゴミの山に埋もれ穢れ結託することで更に弱いものの層を置き、血も涙もなく力で支配し利用し大きく育った一族、自ら卑しめられ呪われて生きることでおかれた場所で強く生きる別権力の側に立つことを選んだアイアマンガー一族祖先。

誕生の品の中に隠された秘密の中にすべての呪われた記憶は刻み込まれている。もとは人間だったモノたち、いつでもその主人と逆転できるモノたちの逆襲の機会。それは実はアイアマンガー混血ではなかったルーシーの屋敷への混入によって巻き起こる虐げられたモノたちの革命である。

美しいものや美麗な宝物に固執する支配者。
ゴミの山を愛し埋もれる生活、その汚わいの山を愛することを義務とする一族でありながら、ゴミに閉ざされた屋敷の中の美麗な宝飾品、美しい外見、金品への、モノへの執着というディレンマに満ちて歪んだ支配者たちの性格は、刻まれたその血筋の祖先たちの一族の歴史のなかに幾世代にも積み重ねられ刻み込まれた呪いとしてあるものだ。

一族の支配者、すべての秘密を知りながらその罪と呪いを自ら引き受け受け継ぎ、モノを支配する力を持ったクロードの祖父。クロードの能力はそれを引き継ぐものとして認定され、すべての闇と秘密を打ち明けられそれを抱えながら引き受ける役割を血族と家族の愛の名のもとに強いられる。

声高に崇高に叫ばれる愛の名のもとに純粋な愛のイデアは否定され虐げられ卑しめられるものとなる。

ルーシーと愛し合い彼女をまもり逃げようとするクロードの勇気と大冒険と、虐げられたモノたちゴミたちのよみがえり、モンスターとなった彼らの大いなる反乱の錯綜する雪崩のような地獄絵図が展開される、手に汗握るものすごいアクションシーンである。

第一部ラストは……謎は謎のままに、クロードが祖父との闘いに敗れモノに変わってしまったことが暗示されつつ終わっている。

これはもう続きを読むしかないのだ。三部作だからあと二巻。……とりあえずこれは第一部読了リアルタイム備忘録。

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トキヲお正月お約束の青い空