日曜の朝。
台風一過の青空が私はほんとうに好きである。何もかも新しく生まれ変わったような懐かしいような不可思議な非日常の幸福感。
三連休初日、荒れ狂う嵐の夜は実家にいた。
近隣の町々の川が次々と危険水域に及んでゆく。決壊。スマートフォンの緊急警報と停電の恐れと吹き荒れる風雨の音に脅かされる長い夜。
閉じ込められてニュース見てても怖いばっかりである。しまいにはニュースを見るのはぱきっとやめ緊急警報切ってひたすらに麦酒を浴びバッハを聴きながら岡野玲子なんか読み、そして今ハマっているドクター・フーの続きなぞ観ようとしたとこで寝落ちした。(ドクター・フーは精神がすさんだり平常心を失いそうな恐怖や寂しさに襲われたりしたときの現実逃避に最適である。タイムマシンで時空を自在に駆け回る謎のドクター。毎回人類絶滅の危機が襲ってくるという憂世の憂さを忘れるキッチュにして壮大なスケール。このノスタルジアあふれる素晴らしいファンタスティック昭和SF感。プラスチック星人がマネキン人形を操って現代を襲い、60億年後の地球の最後に立ち会ったかと思うと過去に飛んで幽体のガス状異星人から人類を救い、近未来に飛んだら宇宙人マフィアが襲いかかってくる。…GOTにもかなりハマったが、本当はこういう方、心は優しくノリはよくドライの洒脱に仕掛けられたウェット、頭はあんまり使わないひたすらお約束ハッピーエンド物語、わくわくエンタテイメントの方が性に合うんだな基本的に。ドロドロときたないかなしいむずかしいことはもう十分だからいっこも要らない。)
そして久しぶりに長く濃くなまなましい夢を見ていたような気がする。
長い長い夢、奇妙に当てのない不思議な夢。
旅の宿。寮のような部屋、微妙な仲のルームメイト数人。夢の中で眠り夢を見る。暗い嵐の夜の夢。目覚めるとひとり部屋に残されている。皆布団をたたんで朝食を摂りに行ったのだ。取り残され、寝床からただぼんやりと眩い青空の窓を眺めている。…目覚めても目覚めてもその部屋の朝に戻ってくる。くりかえしくりかえし、再生の朝を望む夢を見続けるその夢。
幾度でもやり直す。
そして本当に目覚めたら、本当にこの台風一過で生き延びた感のある青空であったのだ。
ベランダでぽかんとまばゆい朝陽を浴びて、ちからづよく五感に沁みるように光と影が濃く秋を彩っているのを感じ、そうして両親とたわいない会話をして無事に日曜日の朝が来たことを思って、
…どうしてか私は突然幸福になった。
非常に不思議に思った。どうしてだろう。生きてさえいればこういう瞬間があるということを思い、生きねばと思ったりしていた。どうしてなのか知りたい。人間が何の理由もなく幸福になれる瞬間のその原理を。物語なのだろうか、それを超えているのだろうか、その辺りを。理由のない理由はどこにあるのだろう…恩寵、という言葉しか思い浮かばないのだけれど。
たくさんの人たちが犠牲になりパニックがあり決定的に人生が損なわれたのにただ偶然で生き残り昨日までの日常を奇跡のようにその薄氷の上を歩いているんだよ。
まあね、どうでもいいんだ。
今日があることをただ受け止める。できることをできるだけ。
それだけ。
幸福に過ごすためだけに生まれたのだから。