毎朝、悪夢から絶望と共に目覚めるタイプである。
のっそりと日々を漕ぎ出す。浮上できればめっけもの。
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だけど、今年もまたマンション中庭のソメイヨシノが開花した。
少し嬉しくなる。世の中きちんと春がやってくるのだ。
で、隣町の図書館前の桜並木も気になったので、久しぶりに隣町図書館まで様子を見に行った。(秒読み状態だな。)
図書館の子供コーナーの新刊と特集をチェックする。
桜、春、花。
うむ。
大好きな安房直子さんの作品も数冊ピックアップされていた。
「うぐいす」
南塚直子さんのイラストとのコラボレーションでのこの絵本は珠玉である。
どんな話だっけ。と、ちょっと手に取ってみる。
「野ばらがにおう春の月夜でした。森の中の小さな病院に…」
最初の一文でもうやられる。私は救われてしまうことになる。
やっぱり安房直子さんは儂のバイブルだ。
(♪君は僕のホスピタル、僕のドラッグ、心を覚ましてくれる♪)(ムーンライダーズ「涙はかなしさだけでできてるんじゃない」)
なんなんだこの言葉の力は。
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森の中の小さな病院。
年老いたお医者さんと奥さんの看護婦さん、そろそろくたびれすぎて、二人ではやっていけない、奥さんも病気になってしまった。
で、見習い看護婦を募集したら、やってきたのが小柄な娘さん。自分は以前、怪我をして飛び込んできたとき助けてもらったうぐいすだという。お礼にお手伝いにやってきたのだという。(シュークリームの箱に寝かせてもらったのでバニラエッセンスの香りがしたとかいうこういうとこがなんだかいいんだな。)
ここからの描写がいい。
あんまり小柄なので合う白衣がない。娘の薬草のスープで元気になった奥さんは、屋根裏のミシンをカタカタ動かしてぴったりの白衣を拵える。娘はよろこんでくるりとまわる。暗い病院の廊下にふわりと白い花が咲いたように明るくなる風景描写。楽し気にまめやかにはたらき、美しい歌を歌う。患者さんも元気になる。年老いた夫婦に可愛い愛娘ができたような幸福な日々。
(毎頁を彩る南塚直子さんの挿絵が本当に柔らかく優しく美しいのだ。)
展開は、娘の恋だ。恋の季節、雄のうぐいすが娘を呼ぶように歌うようになる。
恋の病。娘は弱ってしまい、ある日ついに出て行ってしまう。
祝福するが、ぽっかりと胸に寂しいがらんどうをかかえた医師夫妻。
…そしてね、ラストがいい。
次の年の春。娘にそっくりの娘たちが五人、またやってくる。卵が五つ、孵ったんだね。ひな鳥たち。
毎年うぐいすの看護婦さんがやってくる森の病院なのだ。
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毎年、桜が咲くというだけでこんなにも人々が騒ぐ国のことが私は好きだ。
桜菓子が出回るのも嬉しい。桜餅とかうぐいす餅とか桜餅ロールとか桜ムースとか。
できたらまた実家の隣町の柳瀬川沿いの桜並木や国立の大学通りの桜を見に行こう。井の頭公園の桜、善福寺川の桜。(いつかどこかで見た、夢のような桜のトンネルどこだったかなあ。もう一度あれをくぐってみたい。確か誰かにドライブで連れて行ってもらったのだ。)はらはらと桜吹雪浴びて木の下に埋まっている死体について少し考えたりしてみよう。