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酔生夢死DAYS

本読んだらおもしろかったとかいろいろ思ったとかそういうの。ウソ話とか。

アースヘイブン物語(そして攻殻機動隊)

アースヘイブン物語。
 
キャサリン・ロバーツ、この人の作品は全部読んだはずなんだけど覚えがない。もしかして読んだことなかったんだっけ。…と思いつつとりあえずとにかくやっぱり面白い。
 
異界、魔法世界と現実日常世界の二重世界、そこでの悪役と秩序側の対立の冒険もの、という異世界物語パターンなんだけど。
 
(以下読まなくていいカッコ)(因みに私は子供の頃から魔法物語やファンタジーが大好きで大好きなそのまんま知能も精神も成長せずに徒に馬齢を重ねた人間であるが、ブームを起こしたハリー・ポッター的なるものは全く評価しない。いや全くというわけではないが。優れた娯楽であるといえばそうなんだろうけど。例えばゲド戦記ナルニア国物語なんかの古典ファンタジー文学の神話的な深みに比してあまりにもあざとく貧しく脳みそを愚弄する作物な気がしている。確かに現代的でRPGゲーム的エンタテイメントでありオトナ娯楽小説と同レヴェルの激しいエンタテイメント性、推理やアクションの知能遊戯的おもしろさには卓越しているんだろうと認める。だがここで魔法とはただの道具であり能力でありものめずらしさや刺激に過ぎず、この世の外側への窓口になるものではない、カオスに通じるものではない。異世界がただの外国であり、現実の焼き直し、二次創作に過ぎない。魔法が科学のお粗末な焼き直しであるのと同じように。あれが人気であるという世の中には軽い失望と納得とほのかな侮蔑を感じている。…言わせてもらえば、ファンタジーを愚弄している。人間性の深みや理不尽の深みや文学にはけっして通じない、煽情的な刺激や推理ゲームアクションばかり。どちらかというと「正義」という害悪に通じる権力のための物語だと思っている。量産されるRPGゲームにふさわしい。いやそれはそれでおもしろいというだけですごいんだけど。(ごめんなさい阿呆のひとりよがり基準の個人的嗜好のタワゴトですんで。)(最近の海外のファンタジーでどひゃーっていうほど好きなのは「バーティミアス」シリーズくらいだなあ。キャラクターがものすごくいい。ああ続編出てほしい。)
 
(で、さて。)この作品で魔法の世界側の中心をなす、「オク」。魂の木、世界樹、というような発想である。それを「こちら側」コンピュータのwebになぞらえ、結びつけていく融合の発想が非常に興味深い。
 
世界樹北欧神話ユグドラシルの発想。これを世界構造の参考にした物語は数多くある。いずれも意義深く魅惑的なイメージを持つものだ。
 
うろ覚えだが、上橋菜穂子さんの精霊の木や乾石智子さんの魔導師物語にもそんなタイプの世界の根幹をなす神樹モチーフのイメージがあったような気がする。
 
見えないところで根を張り、世界じゅうで相互に情報が繋がる。世界間に枝を張る、そのイメージはそしてそのまままさしく現代のインターネット、web(蜘蛛の巣)のメタファともなるものだ。
 
この点において、主人公の少女ナタリーの亡くなった母が「魂の木・オク」の中にその記憶、アイデンティティ、「魂」として吸収されている、そのようなオクに組み込まれたかたちとして「生きている」「存在している。」という設定はぞくぞくするほど興味深く魅惑的なのだ。
 
すぐに思い浮かんだのが、「攻殻機動隊」シリーズ。
 
究極の科学技術が、脳や身体をコピーしたり神経系ウイルスを仕込んだりの他者を思考コントロールをするに至った近未来設定のアニメーション(原作はコミックス)である。
 
全身義体、更には義体を複数乗り換えたり他者の意識内に侵入する能力をもつ超ウィザード級ハッカー 草薙素子が、「果たして最後に分析されえないものとして存在する己の魂は存在するのか」、そしてそのような分析不可能な魂「ゴースト」とは、と「自分とは、個とは何か」「人間とは何か」「意識とは、身体とは。」という根源的な人間存在への問いを問う時、ネットの中に魂、意識というかたちでのエネルギー(情報)という「生命体」として生きる可能性を見出すあのスリリングな物語の流れを思い出す。超越した情報ネットワークがそのまま古来の神の概念へと置き換わってゆく。個と死を超越する魂のかたち(=神の領域)が生成する情報ネットワークとしての「現象」である、という認識。現象としての世界と生命という概念。
 
まるで賢治の「春と修羅・序」だ。明滅する有機交流電燈のネットワークの現象としての存在。(「わたくしというげんしゃうは」)
 
もちろんこの児童文学作品は殆ど古式ゆかしいまでの定番ファンタジーのスタイルをとっており、その楽しさを十二分に備えている。子供の永遠の夢、木の中での暮らしのわくわくする設定、美しい花や緑の描写、ユニコーンのイメージなどの意匠が素晴らしく豊かな色彩を描く。
 
魔法の側の世界、あちら側の中心、魂の木「オク」を滅ぼしその力を支配しようとする野望の悪役、スペル使いホークが長い時間をかけてつくりだしたのが「こちら側」(日常現実)のバイオテクノロジーを駆使した「ワタリガラス」という毒薬であった。
 
端末に僅かに入り込むだけで「オク」の超自然を象徴する魔力のネットワーク全体をすべて蝕むことを可能とするその毒薬が発動されたとき、その侵食を食い止めたのは、コンピュータゲームオタク、マーリンによるコンピュータウイルス知識であった。卑屈で自信のない虐げられた子供であった彼が、ナタリーや周囲の者たちに刺激されながら踏ん張り戦い、その能力を生かす道を得ていきいきと成長してゆく物語もまた痛快なものだ。
 
この作家さんの本、何だか少ない。もっと読んでみたいんだがなあ。