富安陽子さんの新刊、いそいそと読み始めたら、主人公の男の子。
「毎日同じであること」に固執する。
「儀式めいた正確さで繰り返す毎日が好きなのだ。」
「毎朝、朝食には、決まった陶器のボウルに決まった分量のシリアルを入れ、きっかり三百ミリリットルの牛乳を注いで、決まったスプーンで食べるーそれがアレイ(主人公の名)のルール…」
いつも同じコースを同じ歩数で偶数で区切りをつける。必ず右足から踏み出す。
新しくであった友人Qは数学の天才だ。彼は数にハマッた三歳の頃の記憶を語る。
「数えてると、すごく気持ちがいいんだ。なんていうか、ホっとして、幸せになるんだよな(中略)だってさ、数学って、すっごく、きちんとしてんじゃん。(中略)世の中って結構でたらめでめちゃくちゃに見えるけど、じつは、絶対変わんない仕組みがあるんだって…ゆるがないシステムに貫かれてるんだって思うだけで安心なんだよな。
だからちびんときは、数ばっかり数えてた」
アレイはそれを理解する。
「ゆるがないルール、乱されることのない秩序の中で暮らすことが何よりも好きだったからだ。考えてみれば、アレイは無意識のうちに、とりとめもなくでたらめなこの世界から自分を守るための、ささやかなシェルターを築こうとしていたのかもしれない。それが歩数を数えることであり、同じ足から一歩目を踏み出すことであり…」
春樹の「1Q84」での主人公、天吾が数学教師であり、数学世界の秩序の美しさ明快さを心に平安をもたらすものとして愛していたこととそれは通じている。
「ネギを刻む」での考えにあんまりタイムリーにつながってたのでびっくりしたんである。いやあ、なんだかシンクロニシティ。
それにしても富安陽子さん、児童向けの作品、柔らかなユーモアにくるまれた文体のものがメインなんだけど、ティーンの少年の語り口、ビシっとエッジの効いた文体のものもいい。さすが、なんというか、プロはすごい。