軽く、テンポよく、読みやすい、バブルの時代の青春の群像。
その「うまさ」「悪くなさ」。
何の文句も言いようのないけれど私に親和しないタイプの小説だなあ、と、とりあえず読み進む。田舎から上京してきた世之介が、誰もが「あるある!」と、共感、経験するような、ごく平凡でステレオタイプな大学生ライフを営んでゆく。バブルの時代の空気、友人や友人の恋、憧れの女性、押しかけてくる恋人。よくできたテレビドラマが、外連味なく語られてゆく。
が、映画のような、20年後の現代とのカットバックの手法によって、青春の時代は淡く輝かしくほろにがく枠どられ、それなりに深みを増してゆく、人生の深度が増してゆく、大人になってゆく主人公たちとともに。
後半は、しみじみと深まってゆく感慨がある。ほろ苦さを増してゆく。が、すべては水彩画のように、どこか、淡く、優しい。これが快さ、味、人気の秘密なんだろうな。
人生は、さまざま、それぞれの愛やかなしみや喜びや可笑しみに彩られ、そして、大きくたっぷりとふりかえったとき、価値のあるもの、優しい美しいものでありうる、と、切なくきれいに肯定してみせるような、味わい。
やっぱり、いわゆる「涙あり笑いあり、最後はほんのり切なく優しい」とよくできた人情青春テレヴィドラマのキャッチコピーにふさわしい、と思うのだ。それはそれで大変素晴らしいことと思う。
- 作者: 吉田修一
- 出版社/メーカー: 毎日新聞社
- 発売日: 2009/09/16
- メディア: 単行本
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