酔生夢死DAYS

本読んだらおもしろかったとかいろいろ思ったとかそういうの。ウソ話とか。

読んだ本

闇太郎

川上弘美はおもしろい。 ダイナミックな作風の変化があって(おそらく意図的な。)実験的なものもあり、作品によって当たりはずれ、というか好き嫌いが別れそうな作家さんだと思う。だけどやはり、そのどれもがどこか私の心を揺さぶるところをもっている。 …

銀河鉄道の夜、あれこれ。

去年、友人の息子さんの読書感想文に関して質問されたことがあった。「銀河鉄道の夜」に関して。 この日の記事ね。 さっきメールの記録で探し物してたら、そのときの答えのメモがあったので、あげておこうかな、と。 *** *** ①雁を食べたらなぜお菓子…

朝の憂鬱。カミュ「異邦人」。

恐れていた朝は恐れていた通りやってくる。 空いっぱい奇妙な砂色の光で満たされる瞬間を見た。これが朝か。 不吉な光の中で、カミュ「異邦人」について考える。 昨夜読み終えた。実は今まで通して読んだことはなかった。(知識としてショッキングな出だしや…

廃墟と希望(日曜美術館「花森安治」・三木卓「惑星の午後に吹く風」)

先日の「不可知の許容」の「とと姉ちゃん」つながりである。 普段みないんだが、日曜美術館。通りがかったら母がみてたんで、つい一緒にみてしまった。花森安治の特集だったのだ。(花森安治は「とと姉ちゃん」の花山伊佐治のモデルになった天才編集者。「暮…

「合成怪物の逆しゅう」レイモンド・F・ジョーンズ

1950年に発表されたアメリカの子供向けSF。 (66年前かよ!)日本で刊行されたのは1967年。 小学生の頃読んだときの強烈な記憶があって、ずっと読み返したいと思ってたのだ。「ゴセシケ」って言葉と脳だけになった科学者がぶよぶよした合成細胞…

「大きな鳥にさらわれないよう」川上弘美

冒頭の章「形見」は序章だ。 クローン技術を駆使した工場で生産される人間や動物たちで構成された不思議な町の風景が描かれる。 この不思議な設定の下で暮らす女性の語り、生活風景を序章として、夢の断片のようなSFじみたさまざまの世界設定の幻想が展開さ…

アースヘイブン物語(そして攻殻機動隊)

アースヘイブン物語。 キャサリン・ロバーツ、この人の作品は全部読んだはずなんだけど覚えがない。もしかして読んだことなかったんだっけ。…と思いつつとりあえずとにかくやっぱり面白い。 異界、魔法世界と現実日常世界の二重世界、そこでの悪役と秩序側の…

「ドミトリーともきんす」高野文子

「ドミトリーともきんす」高野文子 図書館でさあっと眺めた程度なんだけど、くらくらするような、なんとも不思議な読後感。 自然科学と詩の近さと遠さ、その共通と違いのこと、世界の見え方のこと。 カオス、こみいった複雑な曲線のみで構成される具体として…

「ソラシド」吉田篤弘

時代と、街と、音楽、そして言葉。 独特の透明な空気感。 この人の作品世界には、言葉遊びのようなスタイリッシュな文体によって醸し出されるあざとさと、どこか高踏派的な空気感が漂っている。そして、行間ににじむほのかな哀愁、小粋なエスプリの快さ、ノ…

節操がない その2

「物語ること、生きること」上橋菜穂子(構成・文 瀧晴己) 「守り人」シリーズで知られる上橋菜穂子、デビュー作「精霊の木」からずっと追っかけて新刊が出るたびに飛びつくようにしてリアルタイムで読んでいた。 …稀有な物語メーカーである。(本屋大賞な…

「岸辺のヤービ」梨木香歩

梨木果歩さんの童話、となるとこれはもう読まないわけにはいかない、少しの緊張とわくわくを胸にページを開く。 そして、やはりその期待が裏切られることはなかった。 梨木果歩節全開である。非常に注意深く丁寧につくりあげられていて、吟味されたことばが…

安房直子論

序 安房直子。美しく柔らかく、少し怖いような、類稀な作品を多く残した童話作家であり、熱烈なファンは多い。 民話的な要素を色濃くもった彼女の作品群の、骨太で深い独自の魅力は、どのような構造の中に秘められているものなのだろうか。ずっと考えてみた…

「わがままいっぱいの国」アンドレ・モーロワ

子供の頃読んで、タイトルの印象とストーリーが頭のどこかにずうっとひっかかっていた。教育的な寓話的なイメージなんだけど、そのメッセージがよくわからなかったんである。わからないまま心の奥のわからなさの森に、その豊かな魔法の国のイメージはしまわ…

「菜の子ちゃんと龍の子」富安陽子

菜の子先生シリーズの小学生ヴァージョン。座敷童の学校版、学校怪談ならぬ学校神話とでも呼ぶべきジャンルである。和製メアリーポピンズを思わせる、しゃきしゃきピシピシした菜の子先生の「生まれながらの先生」的キャラクター、やたらと学校の規則を大切…

「おーばあちゃんはきらきら」たかどのほうこ

おーばあちゃんっていうのは、小学校一年生のチイちゃんのひいばあちゃんのことだ。おばあちゃんのうちのはなれに住んでいて、ときおりおばあちゃんと一緒にチイちゃんのところに来たり、チイちゃんが遊びに行ったりもする。チイちゃんはおーばあちゃんが大…

「夕凪の街 桜の国」こうの史代

こうの史代は広島出身者なのか、とプロフィールを見て、その生まれ育ち、そのアイデンティティに刻まれる土地の意味のいみじさを思う。方言の確かなネイティヴ感もさすがである。母の田舎が広島で、一時期住んでいたせいもあり広島には縁があるのだが、バリ…

「海うそ」梨木果歩

幾重もの喪失。 さまざまの喪失の物語を重ねる旅なのだ。時空を超えてゆく旅、さながらロードムービーのような旅の道行きの物語構成。これは、読者を今ある現実日常世界から、その宇宙的な道行への深みへと巻き込み、主人公と共に物語世界への旅に誘いこむた…

「なめらかで熱くて甘苦しくて」川上弘美

う〜ん。もともと感性の鋭さが好きなんだけどいささかぶっ飛ばし過ぎてる感のある激しい一冊。さまざまな作風を模索しているその実験的な作品の一環であるようにすら思える。どれもふかぶかとした実力を感じさせてくれる隅から隅まで川上弘美節ブイブイ、な…

「女のいない男たち」村上春樹

「女のいない男たち」というコンセプトアルバムのようなかたちで次の6編が収められている。(前書きでも作者本人が述べているように、それは或いは寧ろ、「女を失う男たち」というイメージである。) ここで失われる「女」とは、「男」にとって何を意味して…

「ちいさなおはなしやさんのおはなし」竹下文子

ちいさなおはなしやさんのおはなし (おはなしだいすき)作者: 竹下文子,こがしわかおり出版社/メーカー: 小峰書店発売日: 2012/12メディア: 単行本この商品を含むブログを見るイヤ実に素敵な本である。 絵がまたとびきり可愛いのだ。おはなしを売って暮らして…

冬虫夏草 梨木果歩

冬虫夏草。読了後、タイトルを鑑みる。 やはりしみじみと意味深い。これは、単に主人公たちの会話に出てくる話題、ひとつの珍奇な生命の在り方を間に合わせの切り貼りタイトルにもってきた、という意味あいなのではない。帯のコピーには本文のこの部分が抜き…

富安陽子「ねこじゃら商店/世界一のプレゼント」

やっぱり富安陽子さんはいいなあ。「ねこじゃら商店/世界一のプレゼント」。偶然その前に読んでいた広嶋玲子「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」も酷似した設定の童話で、ちょっとしたシンクロニシティとなった。双方とも、特別に招ばれない限り、普通の人間では辿り…

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」村上春樹

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」前作「1Q84」。社会と歴史が異界要素を孕みながら複雑に絡み合い、ダイナミックに広がってゆく動きをもって構成された壮大な世界観の物語の次にやってきたのは、それとは対照的なこの作品だった。ひたすら多崎…

富安陽子さん講演会@国分寺並木図書館

図書館で富安陽子さんの講演会があるというので、行ってきた。ちょっと前の話だけど。6月2日、日曜日の昼下がり。彼女とはデビュー作で出会った。「クヌギ林のザワザワ荘」1990年。クヌギ林のザワザワ荘 (あかね創作文学シリーズ)作者: 富安陽子,安永麻紀…

真珠のドレスとちいさなココ―Slaaf Kindje Slaaf

真珠のドレスとちいさなココ―Slaaf Kindje Slaaf作者: ドルフフェルルーン,Dolf Verroen,中村智子出版社/メーカー: 主婦の友社発売日: 2007/06/01メディア: 単行本 クリック: 5回この商品を含むブログ (3件) を見るこれはひどい。ぞっとする。あまりにも怖い…

ショーン・タンの絵本 異国への郷愁

友人が絶賛、「クラフト・エヴィング商會の吉田篤弘が好きなら絶対気に入ると思う。」と紹介してたので、借りてみたのだ。遠い町から来た話作者: ショーンタン,岸本佐知子出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2011/10/14メディア: ハードカバー購入: 2人 …

RDG6 レッドデータガール/星降る夜に願うこと

2008年、第1巻が出てから、出るたびに楽しみに読んできた。 先月末、ついに、6巻が出て、完結、読破。(12月現在)足掛け4年。これは、全部一気に、だあっと読みたかったなあ。 全巻揃うのを待ちきれずに出る毎に読み尽くしてしまっていたから、次の巻が出…

ケイト・トンプソン「時間のない国で」三部作読書記録

時間のない国で 上 (創元ブックランド)作者: ケイト・トンプソン,渡辺庸子出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2006/11/18メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 2回この商品を含むブログ (11件) を見る時間のない国で 下 (創元ブックランド)作者: ケイト・ト…

川上弘美「七夜物語」

七夜物語(上)作者: 川上弘美出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2012/05/18メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 18回この商品を含むブログ (32件) を見る七夜物語(下)作者: 川上弘美出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2012/05/18メディア: 単行本購…

坂東眞砂子「朱鳥の陵」

朱鳥の陵作者: 坂東眞砂子出版社/メーカー: 集英社発売日: 2012/03/26メディア: 単行本 クリック: 2回この商品を含むブログ (3件) を見る並々ならぬ面白さとおどろおどろしさ。皇女の不吉な夢を解くために宮に呼ばれた能力者白妙が、現実の時空を超越する「…