読んだ本
雑誌の特集の見出しを眺めていて目に飛び込んできたのは「ぐりとぐら」のあの愛らしい絵本の写真。 ぐりとぐらは時代先取りSDGsで、あるべき理想の暮らしの姿だっていうのが御説趣旨のようであった。 ということで、ううむ、と、私は己の中のいろいろの優し…
仮縫氏「治療というからには、ことを荒立てずにすむものではない」(中略)「もちろん、荒立てずにすませられればそれに越したことはないのです。(中略)だが世代を重ねて深まってきたややこしさを、本気でなんとかしようと思えばーーときほぐすということ…
お姉ちゃん、というのは固有名詞だった。 ものごころついたとき、「お姉ちゃん」はお姉ちゃんとして存在し、家族皆から「お姉ちゃん」と呼ばれるものであった。「課長」「部長」と同じ。父・母・長女・次女で構成される四人家族の中の役職が呼び名であったの…
自我を放棄するときのその甘やかな悦楽と陶酔感を。喰われるときの、殺されるときの。 *** *** 今回と次回の投稿は、星野智幸デビュー記念としてのメモである。だんだんこの作品世界にくじけてきたので、イメージが醸成されてきたところで記録を残して…
まさか森見登美彦のコレを再読することになろうとは思わなかった。 独特のナンセンスと切れ味の鋭いエスプリ、自虐的諧謔に満ちた文章の饒舌っぷりは、私にとって肌に馴染むまでにちいとハードルが高いのだ。 「ペンギン・ハイウェイ」の、少年たちの目に映…
戦争というのは非常に怖い。怖いものには近づきたくないんだが大抵怖いものは向こうからやってくる。暴力は向こうから襲いかかってくる。理不尽は向こうから襲いかかってくる。 不安と恐怖、そして寂しさに耐えきれず憎悪と暴力に変換する人間というのはいる…
二月の日曜日。ひとりでぼんやりとガラス戸の朝陽の蜜の中サボテンを眺めていた。幸せだった陽だまりの日曜日の記憶の中にいた。非常にかなしく幸せな至福の朝であった。 穏やかに降る朝の光、静かな二月の早春の光。 光の春。柔らかな、そして力づよい新し…
昨日、どんぐり舎に行こうとしたら満席だったので物豆奇へ。(ほんの2メートル先を歩いてて目の前で店に入っていった老夫婦に負けたのだ。最後の空席、そしてしかもとても可愛い窓の近くの居心地のよさそうな大層よろしい感じのとこだった。ワシは悔しかっ…
ディスケ・ガウデーレ。楽しむことを学べ。 鸚鵡の生命力とエスプリを根こそぎ奪い取り、魂をうちひしいだ喪失の痛みから、その目の輝きを取り戻させたのは、村田のこの囁きであった。戦争前、嘗ての日々の、そのかけがえのない平和と友愛が当たり前に存在し…
これとこの続編の「冬虫夏草」の感想は最初に読んだとき、とりあえず考えたこととして記事は書いてある。それなりに一生懸命。 ここね。 コレでまあほぼ、私なりにわたしにとっての「冬虫夏草」の作品としてのひとつの読みの骨組みは、そのエッセンスのとこ…
寒さに滅されそうになりながらブラッドベリ「華氏451度」に取り憑いている。年末に火星年代記をレビュしたとき、こんな風に予告しちゃったしさ。 ~さて次は「華氏451度」にいこうかな。「100分de名著」で一通りのあらすじや指南役の先生の解釈を聞いたけど…
以前、安房直子さんについて書いたこの記事の最後で、ついでにブラッドベリについていつか、と予言していたので気になっていた。まあとりあえず今回の主旨はアレの続きである。 *** *** *** 最近いろいろと機会があってM子とよく話す。 旧友である。高校時代…
さて、ちいと前の話ですが、9月9日。あんまり騒がれないけど、重陽の節句だったんである。 日本では3月3日や5月5日が有名なのに対し、知名度は低いけど、本場中国では実はけっこう重要な節句であるらしい。陽が重なって重陽。めでたい、と。 重陽の日って何…
何故この叙事詩のような神話のような、荒唐無稽な設定の幻想物語がこうも私の心を打ったのだろう、感情を揺さぶったのだろう、とずっと考えていた。これは情趣に満ちた風景描写や幻想の美しいイメージからくるものではあるんだけど、それだけ、と言うことで…
ということで様々なモノの渦巻くコロナオリンピックの騒ぎの中、すっかり脆弱な心身のバランスを崩してへばってしまった自分、ただひたすら身を守り心を鎮めるためにこんな本を開いてみている。実家に逃げ込んだのだ。 で、内容である。 …吉田篤弘はやはり吉…
「アイアマンガー三部作」(レビュー記事はこちら)では、まずは設定のあまりの想定外な独自性、とっつきの悪さ、陰惨で奇妙な世界観にいささか鼻白んだ。が、やがてそれらを迫力のリアリティでなまなましく描き出す凄まじい筆力と怒涛の物語構成力に引きず…
壮大な糠漬け小説である。うねるように押し寄せるこの梨木香歩節に翻弄され引きずり込まれ圧倒され打ちのめされる、その至福の読書空間体験。 …すべては、糠床から始まった。主人公が叔母を亡くし、家宝の糠床を継いだところから物語は始まる。 やがて、日々…
本日はどんより曇天から雨模様。五月なのに肌寒い。 ということで鬱々と地元クラシック喫茶、田園再訪。初めての時は友人と一緒だったのだが今日は鞄に読みかけの文庫本潜ませてひとり潜入。相変わらずの佇まいが嬉しい。ドアを開けるとタイムトリップ異空間…
(ということでコイツの再読にかかったワケである。) *いつもの春樹パターン 冒頭、突然妻に別れを切り出され、それまで当たり前にずっと続くはずであった日常を失い、もはや失うべきものを持たなくなった「私」は家を出て、ひとり山の上に住んでいる。 周…
ということで読了いたしました。第一部読了時点のメモはこちら。 一旦ハマったらかなりの長編ではあってもガアと一気読みしてしまうものすごい力業で構築される壮大な物語ワールド、その世界の躍動感に驚嘆するばかり。 いや~なにしろものすごいスペクタク…
さて。 毎朝悪夢と絶望の中に目覚め、少しずつ少しずつその日生きるための燃料を取り入れて辛うじてその日その日の平常心を己の中に育て直してゆく。朝の透明な空から、清浄な空気から、日々の暮らしに伴うルーティン、その動きからその中にひらけてゆく風景…
さて、「荻原規子が夢中になった長編ファンタジー」という雑誌の記事があったというワケなんである。うむむ、あの希代のストーリーメーカー荻原規子さんが。 これはきっと間違いないに違いない、と私が思ってしまったのも無理はなかろう。 ということで小説…
「小松左京スペシャル」 第一回は、伝記的事実とその心持ちと作品の結びつきを追っていて、その戦時の体験や概念への思い、感覚、メッセージ性や世界観の発生、その「小松左京SF」というスタイルの持つ原点、人間としての発想の重み深み知性のありかたのよう…
さて。コロナの日々は続く。ということで世界中参ってるワケなので私も参っている。すべての個人がそうであるように非常に個人的に参っている。 ということで体調も悪く、この症状は…すわコロナか、と日々恐れ、さまざまに渦巻く不安と恐怖の渦の中、明日の…
(先週書き綴ったものから) 冷たい雨の日曜日。 朝の悲しさと絶望、身体は眠く怠く痺れ魂も暗く沈む。どうなることかと思ったけど、午後、懐かしい街、私は昼下がりのカフェにいた。 座り心地のいいソファ、仄暗い落ち着いた照明、古い音楽。各々の時間を包…
立春。夜明けがだんだん早くなる。 澄んだ朝、世界をももいろに染め上げるうつくしい朝陽の光と影を眺めながらきゃべつを刻み、キヨシロの叫んだ自由のことについて考えていた。(口ずさんでいたのは中島みゆきの「歌を~歌おう~心の限り~愛を~こめて~あ…
寂しい。 ということで、私は考えた。今私を私たらしめているものは、己のこの在り方を恥じる気持ちだけである。 この矛盾の中にしか私の存在はないのだ。苦しみも喜びも誇りも一つの存在としてこのダイナミクスの中にある。 これが本日の総括としての論理的…
インタビュアー大澤真幸による対談集であり、柄谷行人と見田宗介の入門書としてふさわしいという紹介文。ううむそういうことなら、この二人の組み合わせだったらとりあえず目を通さなければならんだろう、やっぱり。 大学時代、ということはつまり我が人生根…
ある日突然、気が付いたら存在していた。病院で気が付く。そしてそこにいた奇妙な医師の指導のもとに、治療と銘打たれた「アイデンティティ確立」という目的に向かってさまざまな年齢性別を「演じながら」生活してゆく。 *** *** 2019年秋の新作である…
待ってました出ましたな、の「岸辺のヤービ」続編。相変わらずムーミン谷である。 でもなあ、こないだの「椿宿の辺りに」で感じてしまった「あれっ、かわされた。」という物足りないような感覚をここでも少々感じてしまった。(岸辺のヤービ、椿宿の辺りに、…