酔生夢死DAYS

本読んだらおもしろかったとかいろいろ思ったとかそういうの。ウソ話とか。

おはなし

11月、12月

11月。 朝の天気雨が上がった後、便りが届いた。銀杏が色づき始めた駒場の街で、金と緑の朝陽の木漏れ日の中を歩いているよ、と。「気持ちのいい季節だね、今日もがんばろ、なんて気持ちになるよ。」 そうか。 私は、晩秋の低い朝陽が辺り一面に金緑のひかり…

酔生夢死DAYS

一日じゅうがらんと冷たい海の底にいたのだ。蒼黒い底なしの虚無の海。 どうして生きてるのかわからないくらい悲しく寂しいと思っていた。そう思いながら、遠い世界の幻のようなげんじつ、この視界に映る幕一枚向こう側の書割の世界の中、にこにこと笑い普通…

学生時代

週末が来るとY君は私に聞いた。 「今週はどうする?」 「う~ん。」しばし考える。 …と、彼はひんやりとした寂しい顔をする。あれ、と思う。 どうして? 「考えるんだね。」 いやだってさ、来週のレポートのこととか友達との約束とかおうちで本読もうかなと…

日記メモ(夏の終わり、新しさと懐かしさ)

考えたことはすぐさま言葉にして書き留めておかないと失われてしまうんだよな。賢治のようにいつでもメモ帳を、とずっと思ってた。 考えたことはその日を生きた証だと思ってる。 ツイッターなんかはそれのインデックスとしての使い方って意外といいかもしれ…

阿佐ヶ谷

よく晴れた日曜日、酷い宿酔いで、顔も洗わず髪もとかさずジーンズにその辺のくしゃくしゃのシャツひっかぶって、のそのそと外に這い出した。なんとなくどうにもならんので。 ばかづら下げて歩いてたら、そういうときに限ってばったり高校の後輩に出くわした…

栗子さん 終章

なんかあれこれあってしばらく離れてたらよくわかんなくなって飽きちゃって書いてて面白くなくなっちゃったんだけど、とりあえずせっかく書いておいたものだしそのときのやりたい放題思いついたままの無茶苦茶メモのままこれでひとまず区切り線、栗子さんモ…

栗子さん(命題その3 モンブランは涅槃である)

早春の土曜の朝である。のどやかな晴天。春ぼらけな青空の下、町はゆるゆるとまどろんでいるようであった。 栗子さんは、駅に向かって歩いていた。人生における誇りについて、すなわちその内実として考えられる要素である自身の存在意義というものを滅びと豊…

栗子さん(命題その2 モンブランは愛である。)

さて栗子さんはもちろん栗が大好きだったのだが、何しろとにかく菓子が好きであったのだ。幼少のころからその執着ぶりは顕著であった。子供とは得てしてそのようなものであるが、女児栗子の執着とはその中にあってもひとしなみとは言い難い鋭い際立ちを見せ…

新宿逍遥

<新宿、街は地球の表皮に救うがん細胞のようなパソコン機能構造。その機能とバグ、ゴミ、各アプリケーション、機能同士の相互関係、影響。迷宮、そのクリーンアップ、リセット、汚泥そぎ落とし廃棄処分としての再起動、最終戦争、世界の終わり。あるいはも…

断章(旅想・無声慟哭)

冷たい雨が降っている。 蕭々と降る雨に込められた古い静かな都であった。延々と寂しく暗い川べりを歩いていた。 夜か昼かもわからないような薄闇の午後である。暗がりに白い灯りが灯っている。ぽうとやわらかく光りながらそれはたたずんでいた。白鷺になっ…

栗子さん(命題その1 モンブランは神である。)

時は遡る。実は、その事実が発覚したのは、すなわち栗子さんが自身が再びモンブランを実食する消費者になる、という概念の存在を、驚嘆すべきリアリティを以て己の心の中に確認したのは、その年の初めである。 それは天啓であった。ある晴れた早春の日曜日、…

年末。知人宅訪問

年末である。改装中だということで、荷物がたくさん積み重ねられていた。お邪魔します、と靴を脱ぐ。どうぞ、とリビングに通される。 リビングのドアの前、ちょっとどきどきした。 確か高校を出たばかりの頃。賑やかなパーティで、皆で押しかけた。うんと華…

蛇男・依頼人プロフィール

請われた。 物語にしてくれ、物語を作ってくれ、と。あの稀代の物語メーカーが物語に餓えている。激しい乾きと飢餓を抱えている。マリアの慈愛のように降り注ぐ「他者による」異質な意味と物語によって鎮められなだめられることを欲している。 …そうだ、彼は…

栗子さん プロローグその2(おまけ)

クリスマススペシャル、「栗子さん・プロローグ・その2」的なおまけ番外編。彼女が秋に本格的なモンブラン探求に至る予兆としての、プレ・モンブランな夏の思い出、マロン・ケーキ編である。 せっかくクリスマスなのでちょっと浪漫な恋愛小説風にしてみまし…

栗子さん・プロローグ

栗子(リツコ)さんは、栗が好きである。ケーキのチョイスはモンブラン。 が、体質のため、成人したころからケーキ類全般、食べられなくなってしまっていた。身体の組成も大分変化し、今はもう大丈夫なのではと言われているが、数十年も食べていなかったため…

妄想

荻窪の小さなワンルームで、するんと背の高いあのひととさまざまの考えを一生懸命語りあっていた時代のことを思いだした。 とても大切な思い出なのに普段はしまいこんで忘れているんだな。 …いや、そういうかけがえのない時間を重ねてきた、その上で現在が成…

物語(蛇男補遺)

だったら私は、自分に都合のいい物語を捏ね上げて、それを信じることにするよ。 夢の中で誰かに言い放った、と思ったら目が覚めた。壁の時計は二時を指していた。深夜二時。 部屋は変な具合に歪んで見えた。自分の目の中のレンズがどこかひずんでいるせいだ…

薔薇

帰宅したら、薔薇の花束が届いていた。 誰だろう。誕生日に花束を贈られたのなんて、何年ぶりだろうか。 誰だろう。薔薇ならば、深紅で、開きかけの蕾が一番好きだと口にしたことがあるのは学生時代の話だ。誰がそのことをおぼえていたんだろう。 誰でもいい…

携帯電話と蛇男

携帯電話の液晶画面に映りこんだ青空と雲がいやにリアルだった。僕は上を見上げ青空を確認した。(携帯電話はいわゆるスマート・フォンである。触れるとなめらかに変化したり拡大縮小したりする美しい液晶画面を見るごとに、魔法をかけられたガラス窓だと僕…

BEATITUDE

ひよこを殺したことがある。まだ人を殺したことはない。 ひよこは、夏祭りの屋台で、渋る母にねだってねだってやっと買ってもらった大切なたからものだった。 確か、小学校に上がるか上がらないかという年頃だった。いつも学校帰りに校門の外でおじさんがた…

安吾先生

酒は奇跡だ。 …って、安吾先生が言ってたんだっけな。 おれが今できることは缶麦酒のプルタブをひいてべろべろになることだけだけど、確かに生まれてきてよかったと思っているよ。 幸福とはこういうもの。さいなら、はじめてのこいびと。 ぼんやりしていたら…

お脳が弱い その2

つまんなそうな顔した親父が一人で切り盛りしてる、いかがわしい場末の居酒屋のカウンター。 一日の終わりに、こういうとこで麦酒をすすりながらおでんなんかつつくのはいいもんだ。ぼんやりと酒を飲みながら店の奥のTVをながめる爺さんや少しくたびれたサ…

続「異邦人」

真綿で首を絞められるような一日の始まり、一週間の始まり。空転する思考。陰惨な赤い空。 誰か隣にいたらいいのに、泣いてすがる。怖い夢を見ただのさまざまの悪い考えのことなどをいうかもしれない。だがそれらがなんであってもどうでもいい。問答無用でた…

朝の憂鬱。カミュ「異邦人」。

恐れていた朝は恐れていた通りやってくる。 空いっぱい奇妙な砂色の光で満たされる瞬間を見た。これが朝か。 不吉な光の中で、カミュ「異邦人」について考える。 昨夜読み終えた。実は今まで通して読んだことはなかった。(知識としてショッキングな出だしや…

キリン4

朝方、どろどろとした悪夢の断片を渡り歩いた。 寝た気がしない。頭の芯がしんしんと痛み、足元がおぼつかない。 朝はいつも乾いた絶望とともにやってくる。悪夢はデフォルトだ。いつも同じ、おなじみのシーン…だが、その禍々しさに慣れることは決してない。…

嫌いはきらい

嫌いってのはどうしようもない。(好きっていうのもどうしようもないけど。) 自分の存在にとって不都合な敵なんである。 ほんと嫌いってツラい。半径5m内に嫌いな人がいるというだけで己の存在が脅かされる恐怖にさらされる。自分が悪い人になってしまうの…

商品

なんだろうな。 人間を商品として扱うことを大変な罪として大学時代あの先生は話していた。 例えば女性を性的な欲望の対象となる商品として扱うとか。 …奴隷制度とか、暴力に根差すもの、もちろん論外である。だが今現在、この身近な身の回りの世の中で商品…

未来のない幸福

幸せのことをよく考える。 そぼ降る雨、みずほ台から国分寺へ帰る、バイク。 川越街道から、志木街道、府中街道。 いくつもの街を越えていく。景色は流れる。大きな川を越えてゆく。その度世界の境界線を越えてゆく気がする。己が不可逆の取り返しのつかない…

儀式

おしゃく~ん、と甘い声で彼は笑い、何だい?とオレが答える。 そういう儀式だった。会話を始める前の。 いつものみんなと一緒の時の声とは違う、私だけが知っている甘えたようなその声の出し方。二人だけでいるときしか見せない表情と声、勝手な呼び方。(…

春の宵

15の春に出会った時から、おそらく一生の友人である。 M子とは、高校時代、毎日顔を合わせ、学校中をかけまわっていた。周囲からはいつも一緒にいた、という印象を持たれていたようだ。(珍妙なチビペアだったんである。)夏休みも冬休みも部活はほとんど毎…